バスに乗りました。
終点で降りる予定です。30分はかかるでしょう。
出発して2分ほど、眼をちょっとつぶった瞬間に、寝てしまっていたようです。
ハッと眼が醒めたのは誰もいないバス。
なんの物音がする事もなく、バスは私一人だけを乗せて走っていました。
ガタンガタン。
一瞬、現実と隔離されたような錯覚に陥りました。
このバスは何処へ向かって走っているのか。
私一人だけを乗せて。
それはとても不思議な感覚でした。
自分一人だけが世の中の仕組みからはみ出し、誰も乗っていないバスに乗って、見知らぬどこかへ向かっているのですから。
視線を巡らせて、料金表に『回送』と言う字を見つけると、やっと合点がつきました。
そうか、終点からこのバスは戻っているのか、と。
そう分かってしまえば、その異質で微かな快感を持った空間は色褪せてしまいました。
見慣れた景色、人、空間。
運転手に声をかけます。
一番近い停車場所で降ろしてもらい、再び終点へ向かうために反対の停車場所へ向かいます。
冷たい秋の風が頬を撫でました。
走り去るバスに頭を下げると、私はさっきの事を思い返します。
なんて不思議な空間だったのでしょう。
誰もいないバス。エンジン音意外の音が皆無の空間。
オレンジ色の陽光。
見知らぬ場所を走る鉄の塊は、確かに私を知らない世界へと連れ去ってくれました。
ぼんやりと狐に化かされたように、私は帰路についています。
本当に不思議な空間でした。
皆さまも一度寝て、回送バスに乗ってみてもイイかもですよ(笑
ちょっと忘れられない、イイ思い出が出来ます。
あの空間は、あの状況でなくては経験出来ないでしょう。
PR